問題No.6268 【推理クイズ】彼女の革命と敗北・第一話

出題者：よもぎ◆[4889835]

残業でいつもより遅くなってしまったので、お詫びに今夜はすき焼きにしようと思った。
近くのスーパーで、たくさんの野菜、ちょっといいお肉、卵などを買い込む。
膨らんだ買い物袋をカゴに乗せて、私は少しだけ急いで自転車のペダルを漕いだ。

家に帰りついたのは、いつもより２時間も遅い夜８時半だった。
「ただいま」と言っても、彼は返事どころか見向きもしなかった。
残業で遅くなった事に腹でも立てているのだろうか。
誰のために、毎日働いて疲れて帰ってきていると思っているのだ。
私は急に、彼の何もかもが嫌になった。

彼は、敷きっ放しの布団の上に、だらしなくあぐらをかいている。
背を丸めて身を乗り出し、テレビ画面にかじりつき、ゲームにのめり込んでいる。
いったい何日風呂に入っていないのか、べたついた髪が首の左右に貼りついている。
あらわになったその首の後ろ、ちょうど肩甲骨の真ん中あたり。
そこに、おもいきり、包丁を振り下ろした。

殺すつもりはなかった──だの、ついカッとなって──だの。
そんな事は言い訳にもなりゃしない。殺した。私が。この手で。それが事実。真実だ。
落ち着け。深呼吸しろ。深く息を吸う。生臭い彼の匂いに吐きそうになる。
落ち着け。素数を数えろ。１、３、５、７、９……いや、これはただの奇数だ。
とにかく落ち着け。私は人を殺した。
人を？　本当に？　こいつは本当に人だったのか？
いや、こいつは人じゃない。クズだ。ゴミだ。ブタだ。虫けらだ。
こいつは自分では何もせず私の稼いだ金を食い潰すだけの寄生虫だった。
ブタや虫けらだって、一緒にするなと憤慨するに違いない。
こんなクズを殺したせいで、私の人生がめちゃくちゃになるなんて、あってはいけない。
むしろこれは革命だ。私という奴隷が、彼という暴君を今、打ち倒したのだ。
ならば私に与えられるのは賞賛であり解放であり自由であるべきなのだ。
しかし実際問題、このままでは私は法によって裁かれるだろう。
ならばどうするか？

……こんな筋書きはどうだろうか。
私と彼は、狭苦しいこのアパートで同棲していた。
私は毎日仕事に出て、彼は毎日ゲームばかりしていた。
夜９時頃、この部屋に泥棒が入り、私の彼とはちあわせる。
二人はもみ合いになり、強盗は流しに置いてあった包丁で、彼を殺した。
そして部屋を荒らして金目の物を奪い、逃走した。

……よし、それだ。強盗殺人に見せかけよう。
私はまず皮手袋をはめて部屋を荒らし、金目の物を奪った。
次に彼の死体を、もみあって刺されたように見えるように動かした。
強盗が入ってきたのに、気付かずにゲームをしながら刺されるなどあり得ない。
包丁は死体に刺さったままにし、指紋も消さなかった。
もともと現場にあったのだからそれが自然だ。
同じ理由で、基本的には部屋中の指紋をそのままにしてある。
最後に、部屋のドアに、ピッキングでこじ開けた跡をつけた。
彼が怪しい通販で手に入れていたピッキングツールを使った。
そして私は、金目の物とピッキングツールを鞄に詰め、
自転車で駅へ行き、コインロッカーにその鞄を隠した。
再び部屋に戻ってきたのは９時半。私は警察に通報した。
そう、私は第一発見者になり、彼を強盗に殺された哀れな被害者となったのだ。

……それから僅かに数日後。私はあっさりと逮捕された。
失敗した。ちくしょう。あんなことに気付けなかったなんて。ちくしょう……

---------------------------------------------------------------------

彼女の偽装工作はなぜ見破られてしまったのでしょう？


※　問題中に使用されている人名、地域名、会社名、組織名、製品名、イベントなどは架空のものであり、実際に存在するものを示すものではありません。

彼女の革命と敗北・第一話への最新コメント

特定はできたのですが、理由は思いつきませんでした。
想像力が衰えてますね･･･。
いい問題でした。

情景を想像して、見落としていることに気がつきました。

あたり！

情景が浮かんできました。
おもしろいですね。
次、行ってきます。

ありがとうございました（´∀｀）♭

コメントをもっと見る／書く

彼女の革命と敗北・第一話の情報

問題作成日：2008-04-29
解答公開日：2008-10-29
正解率：32%　（正解回数：936　解答回数：2842）

よもぎさんの他の問題を見る