頭の運動

問題No.2850 【推理クイズ】リップスティック −その1−

出題者:胡桃◆[4b1ff10]

白い雲に覆われた白い街を横切るドレス。白く長い廊下を息せき切って
走り抜け、白いドアを開けて白い病室に入ると、白い衣装をまとう人たち
に囲まれ、白いベッドに横たわる父親の姿があった。

_______

私がまだ幼い頃、父親が私を肩に乗せて遊んでくれた日々を思い出す。
公園でかくれんぼをしたり、ブランコに乗った私の背中を押してくれたり。
遊び疲れて眠る私をおぶって、子守唄を唄ってくれたり。
私は父親の大きくて温かな背中が大好きだった。

父親と母親は恋愛結婚だったが、欲しくてもなかなか子供が授からなか
ったらしい。不妊治療の末、ようやく授かった娘が私だった。それゆえ、
父親は私を溺愛していたのだった。私が産まれた翌日に、会社中に
市販のお赤飯を配り、自ら企画した「長女・美佳のお披露目会」では
酔いに任せて、近所にそびえ立つ東京タワーによじ登ろうとしたり、
相当の親バカぶりを発揮していたと聞いている。

父親は商社マンで、平日は午前様になることも多かったのだが、激務の
陰で父親が闘っていたのは、煙草の存在だった。

「パパの背中、タバコくさいよ」

そう私に言われて、何度か禁煙を試みた父親だったが、いつも失敗に
終わってしまったのを知っていた私は、煙草が身体によくないということ
だけはわかっていたので、父親にこう持ちかけたそうだ。

「パパがタバコを吸ったら、ミカもミカが大好きなものをやめる」
「美佳、それはどういうことだい?」
「パパはミカが大好きなものをやめたら心配するでしょ?そう思えば、
タバコを吸わなくなるんじゃない?」

今にして思えば、6才にして相当おませな発言をしたものだと我ながら
感心する。一人娘の提案を聞いた父親は、母親に苦笑いしたそうだ。

しかしながら、その週末に、私が夜遅くトイレのために寝床から起き上
がると、父親がベランダでタバコを吸っているのを目撃してしまう。

翌日日曜の晩御飯の時に、私は大好物のカレーライスに手を付けな
かったそうだ。心配した母親が私に聞いてきた。
「美佳どうしたの?お腹すいてないの?」
「お腹はすいてるけど、食べない。だってパパ、昨日の夜タバコ吸ったもん。
だからミカは大好きなカレーを食べないっ」
私が父親を睨むと、さすがに父親は観念したように私に言った。
「美佳、ごめんな。パパもう吸わないから、カレーライス食べなさい」
「本当に? 約束する?」
「ああ、約束する」
「今度破ったら、本当に私がいちばーん好きなものをやめてやるんだから」
そう言って私は父親に小指を差し出すと、小さな約束を交わしたのだった。

−リップスティック その2につづきます−


※ 問題中に使用されている人名、地域名、会社名、組織名、製品名、イベントなどは架空のものであり、実際に存在するものを示すものではありません。

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リップスティック −その1−の情報

問題作成日:2007-04-12
解答公開日:2007-10-12
正解率:22% (正解回数:115 解答回数:501)

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