問題No.2848 【推理クイズ】春鶯亭の牛騒動 【前編】
出題者:きいみ◆[2fa4132]
<前編>
え? 父との思い出ですか?
そうですねえ……。
特に記事にできるようなお話ではないのですが、
父といえば、あたしは牛肉の騒動を思い出します。
ふふふ、妙な顔をしていますね。
そうです。あのモウモウと鳴く牛の肉のことです。
あたしの父は、兎に角真面目な人でね。下戸でしたし、煙草もふかさない。
ましてや賭け事なんてもっての外。
……あたしですか? 意地悪なことをお聞きになりますねえ。
それはようくご存知でしょう?
……ははは、いやいや、いいんですよ。
確かに、父とあたしは正反対です。
父方の祖父は大層な遊び人で、麻雀と碁が三度の飯より好きだったというので、
そちらの血を強くひいたのかもしれませんね。
祖父は家計が苦しいときでも、仲間と一緒に馴染みの店を飲み歩く、暢気な人だったそうです。
でも、父は、そんな祖父を快く思っていなかったようですね。
あたしが生まれたとき祖父はすでに他界していまして、
家には黄王壇の立派な仏壇があったのですが、
その扉はいつも閉じられていました。
開けていると、場所ふさぎだし、辛気臭いのはかなわん、
そういう父の言葉を、幼い頃はなるほどと思って聞いていましたが、
今思うと、閉じられた扉は、祖父への反発を象徴していたのかもしれませんね。
父が遊びに疎く生真面目だったのも、生来のものというよりは、
祖父のようになってたまるかという意地みたいなものだったのでしょう。
ただ、祖父のこと以外は温厚な父で、あたしは今まで二度しか怒られた記憶がありません。
最初に怒られたのは、妹が五つのときでした。
母が、米と引き換えに牛肉を手に入れたのですが、
あたしが国民学校に行っている隙に妹に全部やっちまったんです。
帰ってきて妹から自慢げにそのことを聞き、
腹たつやら悔しいやらで、つい……妹に手をあげてしまったんです。
除け者にされたのがつまらなかったんですね。
でも、そのことを妹から聞いた父は『女に手を上げるとは何事だ、この馬鹿野郎!』
なんていって、あたしを殴りつけました。
父は凄い形相で、子供の目には赤鬼みたいに映りました。ありゃ怖かった。
以来、妹に手をあげたことはありません。
怒られたうちもう一回は、将来、噺家になるつもりだと告げた時ですね。
あの日のことはよく覚えています。晩飯が牛肉の日でした。
楽しいはずの晩飯は、あたしの一言で修羅場に変わりました。
大反対されましたが、あたしも生半な気持ちで切り出したわけではありません。
すると、父はこんなことを言いだしました。
お前が牛肉を食えるのも俺がまっとうに働いているからだ。
落語も牛肉もうまくなきゃハナシになんねえが、
多少マズくても値段がつくだけ牛肉のほうがましだ!
もう滅茶苦茶ですよ。さんざん言い争いましたが最後は父が折れ、
好きにしろ、だがうちの敷居は二度と跨ぐな、と言われました。
そのときの父は怖いというよりも、どことなく寂しげで、
縁日で売れ残ってしまったりんご飴を彷彿とさせましたね。
でも、こちらも頭に血が上っているもんだからそんなこと気にしません。
牛肉なんざいるかい! と息巻いて家を飛び出しました。
弟子入りを願い出る際、この出来事を師匠に話したのですが非常にうけましてね。
そりゃ親御さんが正しい、落語なんて所詮そんなもんだ。
でも、そんなもんだからこそ我々は寸暇を惜しんで勉強しなきゃならん。
一人前になるまで牛肉絶ちして励めというんです。
あたしも単純なもんだから、それもそうかと思いまして、
真打になるまで牛肉を一切口にしないことを誓いました。
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注:解答は後編に入力してください。
※ 問題中に使用されている人名、地域名、会社名、組織名、製品名、イベントなどは架空のものであり、実際に存在するものを示すものではありません。
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春鶯亭の牛騒動 【前編】の情報
問題作成日:2007-04-12
解答公開日:2007-10-12
正解率:58% (正解回数:676 解答回数:1157)
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