問題No.23058 【推理クイズ】鈴木一郎の殺人

出題者：kasima◆[c0bb92f]

　休憩室で煙草を一服していると、調理場側の扉が開き、初老の刑事が顔をのぞかせる。そして、突然入って来るなり、俺の胸につけられたネームプレートを見て、こう尋ねた。
「あなたが、第一発見者の鈴村晶さんですね？」
「ええ、そうです……」
「なんでも、今日は助っ人としてお店に呼ばれたのだとか。とんだ災難でしたな。で、あなた、普段は何を？」
「……推理小説家」
「それはそれは……」
「昔、ちょっとした賞をとって、それから細々と書き続けてるんですけど、俺みたいな奴はごろごろいてね。書くだけじゃ食って行けないから、こうやって時々、友人の店の手伝いをしたり、ね」
「なるほど、なるほど」
　初老の刑事は何が面白いのか「くっく」と笑いをこらえている様だ。
　（……嫌な奴だ）
　正直そう思ったが、ここでこいつをぶん殴るわけにもいかない。
「じゃあ、その推理小説家の大先生に、事件について、そうだな、今日一日の出来事について、出来るだけ詳しく、聞かせて貰いましょうか。いやあ、大先生の観察眼がどんなものか、大いに楽しみです」
（やっぱりこいつ、ぶん殴りてぇ……）　
　そう思いながらも俺は、今日一日あった事を話し始める。

　　　×　　　×　　　×

　俺は、イタリアンレストランの店を経営している中学時代からの友人、鈴林二郎に助っ人を頼まれた。普段は店長一人で細々とやっているようなチンケな店なのだが、今日は貸し切りでパーティーがあるらしく、一人では手が回らず、俺が呼ばれたわけだ。
　俺は今日の客達がどんな集まりなのか、鈴林からよく聞かされていなかったのだが。（むしろ面倒くさくて聞く気さえなかったのだが）なんだか、妙な集まりだった。子供は9歳ぐらいのガキンチョから８０歳は超えていそうなよぼよぼのジーサンまで、様々な年代の男たちが、8名ほど集まっている。どうやら、家族や親戚同士ってわけでも無いらしい。家族や親せきにしては、あまりにも似ていなさすぎる。それにこいつら、何故かお互いの事を名前で呼ばない。
　参加者8名の見た目と愛称はこんな感じだ。

８０近いよぼよぼのジーサン　　　　　愛称「ハッピー・ウッドさん」
６０代ぐらいの髭オヤジ　　　　　　　愛称「すーさん」
５０代ぐらいのおかま野郎　　　　　　愛称「ジュジュ」
３０代ぐらいのボンクラサラリーマン　愛称「きちろう」
３０代ぐらいのスキンヘッド野郎　　　愛称「スッキー」
大学生ぐらいの勘違いイケメン風男　　愛称「エス」
高校生ぐらいのオタキモ豚男　　　　　愛称「ぶっきー」
９歳ぐらいのガキンチョ　　　　　　　愛称「いっくん」

　お昼の12時ごろにパーティーがスタートして、しばらく経ったころ、お店の一本の電話が掛かって来た。鈴林は調理場が忙しく、電話に出れないというので仕方なく、俺が電話に出ると、「スズキイチロウ」という奴と電話がつながらないらしく、今日はそちらの店のパーティーに参加しているはずだから呼び出して欲しいのだという。
　どいつがスズキイチロウなのか分からなかったので、仕方なく、全員に声をかける。
「スズキイチロウさん、いらっしゃいますか？　お電話ですよ？」
　俺がそう声をかけると、皆、顔を上げ、きょとんとしたような、困ったような顔をしていた。
（なんだ、この反応は？）
「スズキイチロウさん、建設会社『寿（ことぶき）』の方からお電話です！」
　なかば半ギレ状態で、俺がそう声を荒げると、やっと、６０ぐらいの髭オヤジが立ち上がり、
「ああ、すまない、私だ」
　と、手を挙げた。

　それから、１時間、2時間と時間は過ぎ、ようやくすべての料理を作り終えた鈴林が、調理場から出てきて、ホールの手伝いに訪れる。
「ごめんごめん、こっち任せっきりで」
「どんだけ飲み食いするんだよこいつら、おかげで俺は休む暇も無ぇっつーの」
「じゃあお前、後ろで休んできたら？　こっちは何とかなりそうだから」
　そう声をかけられた俺は、鈴林が客の元へ向かうのを見届けると、椅子の上に置いてあるカバンを手に取り、調理場の奥にある休憩室へと向かった。

　　×　　　×　　　×

「それで、あなたは鈴林さんと入れ替わりでホールを離れ、休憩室に入った、と」
「ええ、俺の仕事は大体終わってたし、パーティーも3時までって話だったから……」
「で、その後、調理場に入ろうと思ったのは、なぜ？」
「ライターが無かったんすよ。だから、煙草に火を付けるのに、ガスコンロの火を使おうと思って……」
「そこで、死体を発見した、と……」
「ええ、調理場に入ると、あの『ハッピー・ウッドさん』って呼ばれてたジーサンが血を流して倒れていて……」
「このダイイングメッセージは、その時すでに？」

　そう言って老刑事が見せたのは調理場の床タイルに書かれた「鈴木一郎」という血文字だった。事件現場をスマホの画像で撮ったものらしい。

「ええ、俺が入った時にはすでに」
「そうですか」と答えると、老刑事はまた、「くっく」と押し殺したように笑い始めた。
（何が可笑しいんだ、この野郎……）
「それで、あなたはこれを見て……どう思いましたか」
「そりゃあ、名前が書いてあるんだから、鈴木一郎が犯人なんでしょ？　ほら、今日の集まりに来ていた『すーさん』って呼ばれてた髭オヤジ」
「まあ、確かに、パーティーの終わりごろになると調理場は無人、出入りは誰にもできた。店長の許可を得た客の何人かが、調理場横の裏口を使って外に煙草を吸いに出たり、調理場の入り口に近いトイレに行ったりで、つまりは、誰にも疑われず、調理場に出入りするチャンスは全員にあった」
「……言いたいことはわかるよ。こう見えても推理小説家、だから」
「ほう」
「つまり、こういう事でしょ？　殺人現場に落ちている壊れて時間の止まっている時計と、ダイイングメッセージ程、信用してはいけないものはない」
「よくわかっていらっしゃる。ちなみにね、被害者の老人は調理場にあった包丁で、横腹を一突きにされた後、しばらく意識はあったようです」
「……へえ、そうなんだ。でも、結局のところ、誰も疑えばきりが無いよな。唯一、アリバイがありそうなのはあの後ずーっとホールで働き続けていた鈴林ぐらいか」
「まあ、そうなりますかね。ホールに入る前に調理場で殺していたとすれば、別の話になりますが……。幸い、他の皆様の記憶でも、鈴林さんが来るまで、被害者がホールに残っていた、というのは一致しておりまして」
「で、どうなの？　そんな話するって事は、やっぱり鈴木一郎さんは犯行を認めてないんだ」
老刑事はまた、「くっく」と押し殺したように笑い始める。
「いや、実はね。事件はもうすでに、ほとんど解決しているんですよ」
「……？」


〈問題〉
１・犯人の名前、もしくは愛称を、問題文から分かる範囲で抜き出してください。
２・パーティーに集まった人物たちについて、キーワードとなる言葉を漢字4文字でお答えください。（抜き出し不可）
３・老刑事はすでに犯人に目星をつけています。その根拠となる物証は何でしょう？　問題文から抜き出してください。

１と２と３を続けてお答えください。
〈例〉鈴木一郎同一人物ネームプレート



※　問題中に使用されている人名、地域名、会社名、組織名、製品名、イベントなどは架空のものであり、実際に存在するものを示すものではありません。

鈴木一郎の殺人への最新コメント

頭の運動
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お世話になりました。(^^)

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凡様　なおな様　ぎ様　takkan様

コメントありがとうございます！
正解してくださった方も、まだ問題を解いてる途中の方にも、感謝です！

犯人の大きな勘違いを示す物＝問題３の答え
ですので、問題文から抜き出し可能です。

大ヒントをひとつ。
パーティーに集まった人物たちの愛称は、皆、ご自身の名前に由来するものです。
普段呼ばれているあだ名や、ハンドルネーム、イニシャルだったり、名前の一部だったり、漢字だったりを皆の愛称にしています。

犯人が何を勘違いしているか、気付きましたか？

作者の想定する理想的な推理の手順としては、
問題２　に気付き、問題３　に違和感を覚える、そして、そんな間違いをおかすのは問題１　しかない、
といった所でしょうか？

正解のコメント、お待ちしております！

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鈴木一郎の殺人の情報

問題作成日：2020-07-30
解答公開日：2020-10-30最終更新日：2020-07-31 14:15:29(更新回数：3)
更新内容：
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2020/07/31 (Fri) 14:08
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2020/07/31 (Fri) 10:12
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2020/07/31 (Fri) 09:48
ヒントの文章、一部修正


正解率：11%　（正解回数：233　解答回数：2094）

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