頭の運動

問題No.22685 【推理クイズ】泣虫ペダル その3

出題者:名前のない怪物◆[84acc6d]

 ギアをいじる前に、素早く戦略を組み立てる。
 まずは、コースを頭に思い描く。
 現時点から橋まではせいぜい七○○メートル、圧倒時に短距離、瞬発力だけの世界。水泳でいえば五○メートル自由形のようなもので、呼吸の回数さえ戦略になる。
 勾配はほとんどない。一カ所、河川敷から堤防へ上がる緩い坂がある。
 カーブは橋脚を避けるように一つ、そして、ゴール地点までは緩やかに湾曲しているが、これはおよそカーブと言うには甘い。もし橋の上も戦場にするのなら、橋に入るために直角に曲がる。橋の上はタイルが敷き詰められてあるので、滑りやすくて気を遣う。
 途中、障碍としては車止めの黄色い柱があるくらい。
 勝負は、二カ所で決まる。
 すなわち、堤防へ上がる坂と、車止めで狭くなる箇所だ。
 そう計算して、改めて隣を一瞥する。
 加速に関してはタイヤ径の小さいほうが有利で、俺はミニベロの特性をフルに活かした勝負をかけてきた。しかし、今回は相手も条件は同じ。今までにない感覚だ。
 やりにくい。
 併走するミニゼロの力を確めるため、そのまま僅かに腰を浮かす。腕でハンドルを引くと同時に、ペダルを後ろに蹴り出すように力をこめる。上半身はほとんど動きがないので、ミニゼロは気づかない。はずだ。
 いける。
 そのままギアをトップへ。
 ケイデンスは九十前後を保っている。落ちない。
 三月にしては気温が高いせいか、タイヤのグリップもすこぶるいい。
 横風もなく、車体が流れない。
「は、は、は、」
 まだまだ。
 まだまだ加速する。まだまだ伸びる。
 橋脚の下のカーブは、ブレーキレバーに触れることもなく、滑るように美しいラインをとって過ぎる。
 俺は、速い。
 だが感じる。
 ほんの後ろに、もう一つの自転車が張りついている様が。
 目で見る余裕はない。
 その隙で抜かれるのは必至。
 前を見る。
 遠い。
 橋は、まだずっと先にあるように感じられる。
 その前に、坂だ!
 どうやって登る?
 このままのギアで? ケイデンスは落ちないか?
 考える暇はない。
 再び下ハンドルを握り直す。上半身をいっそう深く折り曲げる。
 勢いで、半ばまで駆け上がる。
 猛烈にこぐ。
 落ちたケイデンスを上げるため。
 登り切った!
 その時。
 右前を、銀色の光が走り抜ける。
 まさか?
 坂で抜いてきた?
 信じられない。
 慌ててダンシングしても後の祭り。
 ミニゼロのギアはトップに入っていなかった。
 俺が坂をトップで入ったのを見て、途中で減速すると見越したというのか。
 こんな短い坂でギアを落とすなんて、しかも瞬時にケイデンスを上げるなんて、なんという……。
 待て。
 まだ半身差だ。
 坂は終わった。
 後は車止めの隙間狙い。どこまで、ミニゼロが減速して通るか。
 スピードが上がれば上がるほど、狭い隙間を通るのは恐怖が支配する。無意識にでも速度を落としたり、あるいはこぐのをやめて惰性で入ってしまったりするものだ。
 ミニゼロの根性はわからない。
 しかし、今の俺が抜くには、車止めで勝負をかけるしかない。
 ミニゼロはいつの間にかギアをトップに戻し、加速していく。俺はトップのまま追いすがる。
 差は縮まらない。
 俺は道の左いっぱいに寄って、タイヤ止めに備える。ミニゼロはそのまままっすぐ貫く気だろう。
 来た。
 黄色の車止めが二本、高速で近づいてくる。
 目測を誤れば、膝か指を痛打する。酷ければ、正面衝突して空を舞う。
 ここで緩めない。ここで緩めない。
 追い抜く最後のチャンス。危険は覚悟の上。
 渾身の力を振り絞って、さらに加速。
 ミニゼロも足を緩めない。
 周りに目もくれず。
 ただ二本の障碍物の間を撫ぜる用に通り過ぎる。
 差は、縮まらない。
 二台、そのまま滑るように橋に入り、ミニゼロ乗りが上半身を起こしたのを見て、俺は闘いが終わったのを知った。ゆるゆると、橋の欄干の側へ惰性で寄っていく。左のペダルを外す。きゅぅとブレーキをかける。
 固いソールが、タイルを打って高い音を出した。
 負けの、宣告のようだ。

 心臓の脈動が全身を経巡る。
 爽快だった。
 たった五○○メートル全力で走っただけなのに、一○○キロも走った音のように疲労と達成感とが同居している。
 太股はヒクヒクと、しばらく立てそうにない。心臓はバクバクと、口から飛び出しそうだ。
 酸素が欲しい。
 俺は橋の中ほどにあるベンチに仰向けになり、空の青を見ながら大口を開けて呼吸を続けた。
 マコは欄干に立てかけてある。
 マコの隣にはミニゼロ――その下にはうずくまるミニゼロの所有者。体の状態は俺と大差ないが、勝負に勝った分、回復に時間がかかりそうだった。俺もこいつも、全力を出し切ったことには変わりないのだ。
 だが。
 僅差であれ、負けは負けだ。
 フルサイズではなく、ミニベロ同士で負けるのは衝撃が大きいものだと初めて知った。何しろ、ミニベロは絶対数が少ないから、闘うこともほとんどないのだ。
「くっそう」
 ようやく、声が出るほどまで回復した。
 これから、ミニゼロのことを忘れて南河内サイクルラインを走れる日はなさそうだ。
「あんた、速いなあ」
 俺を見下ろして、ミニゼロは言う。
 サングラスを外して、すっかり息を整えている。陰になって顔はよく見えないが、俺と同じくらいの年だ。
「よう言う」
 俺もサングラスを外して、顔の汗を拭う。
「おまえのほうが、速かったくせに」
「メリダをぶち抜いたのん、見ててん」
 唐突にミニゼロは言った。
 メリダ? ああ、完全に忘却の彼方へ行っていたが、この闘いの前にメリダ君(仮称)に自転車の格の違いを見せつけていたのだった。
 ということはつまり、ミニゼロもあのあたりから走ってきて、離されなかったということだ。やはり、相当の脚の持ち主である。
「あんたの自転車、マッコーやろ。前から見てて、気にしとってん。ミニベロでちゃんとしたロードに乗ってる人て、少ないやん」
 ミニゼロはマコの横にしゃがみこんで、ためつすがめつ首を傾けている。
 ――マコは、しばしば意味を聞かれるが、実はマッコークジラのマコである。マコと発音するのはどうも安定が悪いらしく、マッコーと呼ぶ人が多い。俺も面倒なので、マコと訂正しない。
「勝手にあんたの自転車走ってんのん見て、マッコーやマッコーやて言うててん」
 誰も彼も、似たようなことをするものだ。
 これが南河内サイクルライン常連どもの思考回路か。
「他人に何て言われてんのか知らへんけど、マッコーでええよ。せやけど、おまえのことはミニゼロ呼ばしてもらうで。あと、次回会う時は、絶対負けへん」
 体を起こして、今度は俺がミニゼロの自転車をじっと見つめる。
 さすが、いい自転車である。
 ペダルは奇しくも俺と同じで、MTB用のSPDをつけている。ということはまさに同じ条件で負けたということか。自転車自体の性能はややマコのほうが上であるから、人間の力で負けたことになる。よけい、悔しいではないか。マコが泣く。

【問題】
矛盾点を抜き出しで。


※ 問題中に使用されている人名、地域名、会社名、組織名、製品名、イベントなどは架空のものであり、実際に存在するものを示すものではありません。

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泣虫ペダル その3への最新コメント

[219037] (無題)
 投稿者::ジャックナイフ◆[248c82b] 投稿日時: 2019-06-04 19:46:06
gggが10年前と同一人物かは知らんが、もしそうであればgggも売られた喧嘩は買う人だったよね?
言い合いはいいんだけど、矛盾に関しては俺の誤認識かもしれんわ
矛盾点を求めてる上で、誤った情報を答えさせるのは矛盾とは違うと思った。
それが俺の認識。
[219035] (無題)
 投稿者::ジャックナイフ◆[248c82b] 投稿日時: 2019-06-04 19:33:32
こっちもか
頭に「解けたからこそ」って書いてんだろ
クイズ内容に対して文章が長いっつってんだよ
ゆとりの読解力低下が嘆かわしい。

どこが矛盾してるのかも教えてほしいわ。
誤った情報を前提としてる時点で矛盾じゃねーだろ
[219026] よい矛盾でした!
 投稿者::ggg◆[5629983]#[正解者] 投稿日時: 2019-06-04 17:48:00
この程度の文章が長いとは
ゆとりの活字離れが嘆かわしい。
[219025] (無題)
 投稿者::ggg◆[5629983] 投稿日時: 2019-06-04 17:01:08

[218980] (無題)
 投稿者::ジャックナイフ◆[d329c3d]#[正解者] 投稿日時: 2019-05-29 01:48:00
これは「矛盾」と言うのか?
解けたからこそ なげぇ の感想しか出てこないな


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泣虫ペダル その3の情報

問題作成日:2019-05-20
解答公開予定日:2019-11-20
正解率:2% (正解回数:5 解答回数:237)

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