頭の運動

問題No.21379 【推理クイズ】頑固なプログラマー

出題者:空真代◆[a438d7d]

「あなた、ご飯できたわよ」

部屋の扉をノックする。
返事はない。仕方なくノブを回す。

ガチャ。

扉を開けるやいなやの出来事だった。

「勝手に入ってくるんじゃない!飯はそこに置いておけと言っただろう!」
「いつまで部屋に閉じこもっているつもり、意味あるの!?」

五月蝿い、という罵声と共に部屋から突き飛ばされる。

ドン、としめられた扉の前、静けさの中でさめさめと、泣き崩れていた。


ここは相模家。
夫婦2人と中学3年生の長女、小学6年生の次女、
幼稚園になったばかりの末っ子の3姉妹の5人家族である。
夫は優秀なプログラマーであったため、
普通よりは大きな家、裕福な水準で幸せな生活を営んでいた。

夫は厳格な性格で、自分はもとより、家族にも、身だしなみやマナーを
要求するような頑固なしっかりもの、といった男であった。

しかし半年前、勤めていた会社で重要機密が盗まれるという事件があった。
その時、優秀だったことがあだとなり、その犯人として罪をかぶらせられてしまい、
会社を解雇されていたのだった。

今までの功績から、刑事事件沙汰にはしないでくれていたが、
業界内では噂が広がってしまい、プログラマとして復職することができないでいた。

プログラマとしての誇り高い姿に自信を持っていた夫は、
コミュニケーション能力の低さもあいまって、他の仕事に就くという選択肢は
選べず、完全に病んでいた。

しばらく、酒に明け暮れる日々を過ごしていたが、
1週間ほど前、酔いながら「会社に報復する」とわめき散らしたのだった。
その次の日から、部屋に閉じこもっていた。


そんな相模家の、ある日の出来事。

「明子、花子、ご飯できたわよ!」

母が、下の階にいる2人の娘に呼びかける。
ごとごとと、音がした後、階段を登ってきた。

「お母さんおはよう」

2人がリビングへと上がってきた。

「2人ともおはよう。さっちゃんは?」
「さっちゃんまだ寝てるよ」

母の顔つきが険しくなる。

「もう、あなたたちが起きてくる時に、一緒に連れて来てってあれほど言ってるのに!
 あなたたち家族でしょ?お姉ちゃんよね?」

母の怒鳴り声が響く。

「ご、ごめんなさい…」

2人は泣き出す。

夫が部屋に篭ってからというもの、夫婦仲はもちろん最悪。
蓄えがあったため、今は問題ないが、収入も途絶えている生活、
じわじわと見えてくる暗い未来に、母としての疲労はピークを迎えている。
子供達への八つ当たりも日に日に酷くなっていた。

「あ、ち、違うの、二人とも、そんなこと言いたいんじゃなくて…」

母と姉達の騒ぎで目を覚ました末っ子がリビングにあがってきた。
慌てて駆け上がってきた拍子で、使い古されてよれよれになった
だぼだぼのTシャツのスソを踏みつけてこける。

「おかあさん、おねえちゃん、けんかやめて…」

こけた痛みに耐えるため、Tシャツのエリを噛みながらそう叫んでいた。
生えかけた乳歯に引っかかり、手縫いで刺繍された「さち」の紐がプツンと1本切れた。

「さっちゃんもごめんね。ごめんね…」

その場に座り込んで母は泣き崩れた…。


その日の晩である。
母と子、リビングで団欒していると、上の階から父が突然降りてくるのであった。

「出かけてくる」

そういい残し、家を出ようとする。

「ちょっと、どこいくのよ」

父は後姿のまま何も言わずに扉をしめた。

「なんなの、なんなのよ…」

浮気、失踪、自殺。
最悪のケースが一瞬よぎったが、もう1つの出来事がその全てを消し去った。

あの人は、部屋で何をしているのか?

今がチャンス、そう思った母は夫の部屋へと向かう。


部屋に入ると、真っ暗な部屋にディスプレイの明かりだけが灯っていた。
ファンの音が響いており、PCが動いているのが分かる。

画面を覗き込むとこう表示されていた。

「5%,10%…」

それが何を示すのか悟った母が青ざめる。

「報復…。もしかしてこれはコンピュータウイルス…」

「これが、もしこれが完全に動いてしまったら、今度は確実に警察沙汰に、
 犯罪者になる。そうしたら、家族は…」
 
「とめなきゃ!」

コンセントを抜こう、そう単純に考えが、机の上のメモ書きに気づき、手が止まる。

メモ書きはこうだ。
「全ては終った。もうやり直せない。解除用ワクチン発行のためには
 パスワードが必要だ。ただ、お前には分からないだろう」

メモが示すには、すでにウイルスは発行済みだという。
これを修復したいのであれば、パスワードにより発行されるワクチンが必要であるという。

「パスワード…」

ディスプレイにはパスワード入力用のボックスと一緒にこう表示されていた。
「私の人生の全てをささげる」

報復のため、この瞬間に全てをかけた父の遺書ともとれる言葉だった。

母の目に浮かぶ涙…。

その震える手を、キーボードへ運ぶ。

「45%,50%,55%…」
その時は確実に近づいていた。

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※ 問題中に使用されている人名、地域名、会社名、組織名、製品名、イベントなどは架空のものであり、実際に存在するものを示すものではありません。

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頑固なプログラマーの情報

問題作成日:2015-06-07
解答公開日:2015-07-07
正解率:4% (正解回数:84 解答回数:1760)

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