問題No.13611 【推理クイズ】花一輪

出題者：立華奏◆[a3bfe5f]

「約束してた海、行けそうにないや」
　夕日の差し込む病院の一室で久手堅桜子（くでけんさくらこ）は寂しげに恋人の根路銘鉄雄（ねろめてつお）につぶやいた。
　桜子が原因不明の病に倒れてから一ヶ月経っていた。当時はその症状から薬物中毒の可能性が疑われたが桜子本人が頑なにそれを否定したため医師も深くは追求しなかった。
「なに弱気になってんだよ。病気が良くなればいくらでも行けるさ。それに今年がだめなら来年でも…」
「ううん。そういう意味じゃないの」
「ば、ばかなこと言うなよ。諦めなければ…」
「お願い。私の話をよく聞いて。あれ？ゴメン。頭ではわかってるんだけどうまく言葉にならないや…」
　そう言って桜子は涙ぐむ。
「俺は桜子の恋人だぞ。遠慮せずなんでも言ってくれよ」
　鉄雄も涙ぐみながら強がって見せる。
「そう、頭で考えるから駄目なの。大切なのは中身。私も鉄雄の外見じゃなくて、その優しい性格に惹かれたんだから」
「コラ！俺はそんなに不細工じゃないぞ」
「茶化さないで聞いて。一番大事な鉄雄に最後のメッセージ受け取ってほしいの。決して忘れないでね。その時が来ればわかるはずだから。…今日はちょっと疲れたみたい。すこし休むね」
　「な、何だよ『その時』って？」
　桜子は既に安らかな寝息を立てていた。

　そんなことがあった数日後のことだった。桜子の容態は急変し医師の懸命の処置も虚しく桜子は16歳の若い命を散らした。
　あっけない最期だった。呆然と立ち尽くす俺を横目に桜子に取り付けられた器具を看護師たちが手際よくはずしていく。
「娘の最期を看取ってくれてありがとうね。桜子がこれ鉄雄君に渡してって」
　憔悴しきった顔で桜子の母親が植物の球根を渡してくれた。

＊　＊　＊

　桜子の死から一週間経って、なんとか俺は学校に通えるようになっていた。
「よう、鉄雄。元気出せよ」
　話しかけてきたのは悪友の不二澤裕也（ふじさわゆうや）だった。
「あ、ああ…」
　生気のない声で答える俺に不二澤はおどけたように話す。
「そうだ、俺、桜子が逝く2週間前にお見舞いに行ったんだ。あの時は元気そうだったのによ。俺お見舞いにライラックの花を持って行ったんだ。そしたら彼女いい『思い出』になったって喜んでたよ」
「ふうん」
　俺はそっけなく答える。
　その様子を遠くから見ていた学級委員の座間味京介（ざまみきょうすけ）が声をかけてきた。
「僕も久手堅さんが亡くなったこと今でも信じられないよ。そうそう、僕も亡くなる3週間前にお見舞いに行ったよ。アネモネの花を持ってね。花言葉は『はかない恋』さ」
　気障な眼鏡野郎にうんざりした俺は無言で席を立った。

　放課後。帰る準備をしていると桜子の親友の福留美樹（ふくとめみき）が話しかけてきた。
「桜子のこと残念だったね。私もね入院してすぐにお見舞いに行ったんだよ」
「へえ、花でも持って？」
　彼女とはろくに会話したことがなかったので俺は適当に返す。
「もちろん持って行ったわよ。ガーベラの花をね。桜子、これで少しは『希望』が持てたって言ってたわ」
　もう初夏だというのに長袖のカーディガンを羽織っている美樹を少しいぶかしがりながらも俺は教室を後にした。

＊　＊　＊

　季節は巡り春の麗らかな日差しを受けて桜子から貰った球根が一輪だけ花を咲かせた。
「ヒヤシンスか…」
　俺はその時初めて球根の種類に気づく。
　そして、桜子の死の真相にも。
「こうしてはいられない…急がないと！」

問題：桜子のメッセージの意味をお答えください。
　できるだけ漢字に変換して入力してください。また犯人名などの人名も漢字で。


※　問題中に使用されている人名、地域名、会社名、組織名、製品名、イベントなどは架空のものであり、実際に存在するものを示すものではありません。

花一輪への最新コメント

それぞれが渡した花が、関係あるんでしょうか？
それとも、ヒアシンスだけが関係あるんでしょうか？
分かりません。

わからない・・・

もっとヒントが欲しいです・・・

(-。-)y-゜゜゜当たって分かる賞味期限。

楽しく参加させていただきました(^^)

難問でした。
それにしても、とても繊細な文章ですね。

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花一輪の情報

問題作成日：2010-10-29
解答公開日：2011-04-29最終更新日：2010-10-30 18:07:41(更新回数：3)
更新内容：
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ヒントを追加。

正解率：44%　（正解回数：14690　解答回数：33220）

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